乳腺炎のお話
- 2018/6/11
- 子育て・家族
今回のテーマは、乳腺炎です。乳腺炎とは、乳房に起こる炎症で、痛みや腫れ、発熱などを来たします。母乳を通し、赤ちゃんとの幸せな時間を楽しみながら過ごしていたいはずなのに、こうした症状を、しかも繰り返している方などは特に、つらくて気持ちもブルーになってしまいますよね。今日は、出来るだけ乳腺炎にならないように、そして乳腺炎になっても早めに対応できるように、そのための何かお役に立てるお話が出来たらと思います。
母乳のうっ滞と乳腺炎の違いは?
出産後にやっとにじむ程度だったおっぱいが、産後2~3日目頃に、急に乳房全体が張って熱っぽくなったという経験をされた方、多いのではないでしょうか。これは、赤ちゃんが吸う刺激によって、お母さんのおっぱいにたくさんの母乳が一気に作られ、たまってくるからです。まだこの頃の赤ちゃんは一度に多くの量を飲めないため、たまった母乳は流れが悪く、乳房全体が強く張り、触れると痛い状態になることがあるのです。これは、乳腺炎と似た症状なのですが、うっ滞といって別のものです。授乳を続け、赤ちゃんがしっかり飲めるようになってくると、だんだんと症状は落ち着いていくので、そのまま様子をみていて構いません。
しかし、何らかの原因でうっ滞の状態が長びいたり繰り返していると、たまった部分の乳腺が傷んだり、あるいは詰まったりして炎症を起こしてしまうことがあり、そうなると乳腺炎です。また、乳腺内の母乳に細菌などが感染し、そこから乳腺炎を来たすこともあります。乳腺炎は、乳房の1か所(まれに2か所以上)に炎症が起きるので、その部分が赤くなったり、硬くしこりを触れたり、触ると痛みが出るなどの症状がみられます。軽いうちは授乳によって軽減することもありますが、症状が持続、悪化したり、全身に熱が出てくる場合などは、出来るだけ早めに病院や助産院などの助産師へ相談するようにしましょう。
乳腺炎になったらどうする
一口に乳腺炎といっても、実はその原因や発症の仕方、程度は皆違うのです。まずは炎症部分にたまった母乳を出来るだけ早く外に出した方が良いため、助産師にマッサージや対処法を相談しましょう。ちょっと痛くてつらいかもしれませんが、授乳は続けた方が良いです。出来れば乳房の痛みやしこりを触れる部分に少し圧をかけながら、飲ませてみて下さい。炎症を抑える目的で、その部分の乳房を軽く冷やすと痛みが少し楽になることもあります。他にも状態に応じた対処法がありますので、詳しいことは助産師に聞いてみて下さいね。
よく、乳腺炎で熱が出ているのにおっぱいは赤ちゃんにあげて問題ないの?と聞かれますが、大丈夫です。母乳には優れた免疫システムがあり、乳腺炎になった乳房ではその原因となる細菌などに対する免疫が作られ、それが赤ちゃんに移行しますので、問題ありません。安心して赤ちゃんにしっかり母乳をあげて下さいね。
ところで、母乳が多くできやすい、うっ滞しやすいという方でも、乳腺炎になる方、ならない方がおられますよね。なぜだろうと思っている方は多いのではないでしょうか。また、普段とても調子がよかったのに急に詰まって乳腺炎になった、という方もおられると思います。実は、これ、という明確な原因がわかる場合もあれば、そうでない場合も多いのです。赤ちゃんが成長してきて、昼夜のリズムが出来、夜間の授乳間隔がかなり空くようになった、とか、周囲のいろんな物事に興味を持つ時期になり、遊び飲みを始めた、とかで、母乳の飲み残しが多くなると乳腺炎になったという方もおられます。こういう時期は、少しおっぱいの状態に気を付けておいた方が良いのかもしれませんね。
一方でお母さん自身の体調によることもあるようです。実際に乳腺炎になられた方のケアをしていて、「最近上の子の園の行事が続き、忙しくて疲れていた」「風邪をひいていて調子悪かった」「夫と育児の考え方の違いで悩んでいた」など、身体や心の不調を抱えている方は結構いらっしゃいます。体調が弱っている時は、風邪もひきやすくなりますよね。乳腺炎も同様のことが多いのかもしれません。ですので、乳腺炎の時は、まずしっかり授乳をしたら、空いた時間を見つけて少しでも多く睡眠をとりましょう。熱が高い時などは、出来ればご主人などご家族に家事や上のお子さんのお世話などお願い出来るとよいですね。消化の良いものを食べて、水分をしっかり摂り、休息をとりましょう。
乳腺炎を予防するためのセルフケア
それでは、乳腺炎にならないようにするために、どんなことに気を付けていくとよいのでしょうか。先程のお話に続き、出来るだけ体調を整えるようにして過ごすことが大事かなと思います。とはいえ、お母さんは、毎日が忙しくなかなか休む暇がないのが現状ですね。でも、ちょっとだけ自分の身体の声に耳を傾けるようにしてみて下さい。「ちょっと疲れが溜まっているかな~」「頭痛が最近ひどいな~」など何かサインを感じたら、少しでも時間を見つけて睡眠をとったり、リラックスできることをやってみたりと、自分をリセットする工夫を見つけてみて下さいね。
<循環を整える>
母乳は血液から出来ています。血液の循環を良くするために、身体をあたためましょう。冬場は特に、足が冷たい方は足湯や入浴でしっかり温まりましょう。肩甲骨周囲を温めるだけで母乳の分泌が良くなる方もおられますよ。温かい汁物や、飲み物を摂るようにしましょう。母乳に良いお気に入りのハーブティなど見つけてみるのも良いですね。
<呼吸を整える>
慣れない育児や睡眠不足で緊張した日々を送っていると、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなりがちです。呼吸が浅いと酸素が身体の組織に十分に行き渡らず、筋肉が硬くなったり神経の働きが鈍くなったりするのです。背部や乳房周辺の筋肉が硬くなると、乳腺炎などのトラブルが起きやすくなります。時々ゆっくりと深呼吸をし、全身の力を抜くようにしましょう。
<胃腸を整える>
よく、脂肪分の多い食事や甘い物をたくさん摂ると、乳腺炎になりやすいと聞かれたことはありませんか。特に脂肪分は血液の状態に影響するので一理ありますが、胃腸にも負担をかけます。胃腸は、食べた物を消化吸収するところで、その機能は免疫と密接に関連しています。過食や脂肪分の多い食事をしていると、胃腸に負担がかかり、消化機能、免疫機能が落ち、乳腺炎になりやすくなるのです。栄養バランスが良く出来るだけ消化の良い物を、よく噛んで食べ胃腸の調子を整えるようにしましょう。
<心のバランスを保つ>
悩みや不安、緊張などが高まると、ストレスになります。ストレスはホルモン分泌や自律神経機能に影響します。母乳はホルモンの働きで分泌するので、心にストレスを抱えていると母乳の状態に影響が出やすいのです。乳腺炎などトラブルを起こしやすい方で、もしかしたらお産のトラウマや、育児の不安や悩みを抱えたまま過ごしている方いらっしゃいませんか。ご主人や何でも話せる人に聞いてもらったり、身近な助産師に相談して下さいね。心がすっと軽くなると、不思議とおっぱいの状態が良くなることも多いのです。
赤ちゃんに母乳をあげる・・・それはお母さんにとっても赤ちゃんにとってもこの上ない幸せのひと時だと思います。この先の長い長い育児の期間を考えると、母乳をあげられる時間はほんの一瞬。だからこそそんな貴重で幸せな時間が、どうかトラブルなく順調に経過されますよう、私たち助産師はいつも願っています。
のぐち助産院 助産師 野口あけみ
福岡県在住。市の母子保健業務に従事する傍ら、地域で乳房ケアや育児相談、骨盤ケアなどを行う助産院を開業し、自宅への訪問を中心に、現在活動中。