三歳の息子が幼稚園に落ちた。名門幼稚園とか、熾烈なお受験がある園ではない。これまでも息子の発達に不安がなかったわけではないが、こんなにハッキリ断られるなんて。「指示が通りにくく集団生活が難しそう」「安全にお預かりできないと判断しました」ひとつひとつの声が刺さる。長い待ち時間を耐えた息子は、疲労と空腹で園の門の前で座り込んでしまった。私も一緒に座り込んでしまいたかったが、息子を抱きかかえ、家まで帰った。
家では夫と娘が待っていた。息子の双子の相方である娘は、早々に面接を終え先に帰っていた。家に一歩入った途端、私は号泣してしまった。子ども達の前で泣いてはいけない、と思うのに、止められなかった。
夫に「少し休みな」と言われ寝室に行く。すると息子が絵本を持ってついてきた。いつもは「ほんをよむ!」と私に読むよう促すのに、その日は息子が自分で声を出して読み始めた。
「いちごさんと」
「ぺこっ」
そして私の方へ向き、にっこり笑って
「いちごさん、だるまさん、ぺこっしたよ」と、たどたどしく言った。
11月初めの午後の日差しが差し込み、息子の笑顔は神々しかった。「めろんさん、だるまさん、ぎゅっしたよ」と、都度実況をはさみながら読み切った息子は、最後のページで誇らしげに「ピース!」と言って笑った。三歳すぎてもピースができない息子。でも懸命にピースしようと頑張っていて、愛おしくて、私はこの日はじめて心から笑顔になった。今日はよく頑張ったね。あなたがニコニコあなたらしく過ごせるところが見つかるといいな。ママ、頑張るね。一緒に頑張ろうね。
今、息子は療育に通いながら、来年度年中からの入園を目指している。ピースもできるようになった。写真を撮る時、息子が「ピース!」と言うたびに、私は『だるまさんと』の最後のページを思い描く。
いちごさん、ばななさん、めろんさん、だるまさん、ありがとう。リトル・ママ編集部も審査に参加する「絵本の日アワード 絵本とあなたのエピソード部門」(主催:絵本と図鑑の親子ライブラリー ビブリオキッズ)。歴代編集者が毎年涙しながら審査している感動のエピソードの中から、2022年のグランプリに輝いた作品を紹介します!