小さな息子2人を抱え私はシングルマザーになった。必ず3人一緒に絵本を読むのが夜寝る前のルーティン。まだ幼い次男をおんぶし小さかった長男と手を繋ぎ、町の小さな図書館へよく通った。
絵本の中で「お父さん」その言葉が出てくると、どうしても言葉に詰まる。「お父さん居なくてごめんね」そう思うと我慢していた涙が溢れてくる。枕元の電気の薄明かりの中、息子達に気づかれないよう…涙を必死に抑える私の姿を幼い長男はいつから気が付いていたのだろう。
ある日「かあちゃんこれ! もう泣かないよ」と図書館の本棚から選んできたのが『こんとあき』。その息子の顔を見た時もう泣かない!と心に決めた。頭を撫でると得意げな顔で笑う長男の顔は今でも忘れていない。
私が「こん可愛いねー」と言うと「かあいいねー」と笑う長男。その横でまだ小さな次男も声を出す。「いたいいたい とでけー」と覚えたての言葉で、電車のドアに挟まったコンのしっぽの絵を長男が撫でると次男も一緒に触ろうと手を伸ばす。そして、こんの口ぐせの「だいじょうぶ だいじょうぶ」は、いつしか「かあちゃんダイジョブ ダイジョブ」へと進化し長男の口ぐせとなった。その言葉に私は何度励まされた事だろう。
その後、その絵本を購入し何度も読んだ。その絵本は私たちの宝物だったが、あの津波で流されてしまう。あれから年月が過ぎ私の脳裏からは遠のいていた。
22歳になった長男から先日、写真付きのラインが届いた。「図書館で見つけた! 覚えてる? なつかしー」の文章と『こんとあき』の表紙の写真。
「かあちゃんダイジョブ ダイジョブ」と言ってくれた幼い長男の姿が浮かぶのと同時に涙が溢れる。涙で目の前がかすむ中「覚えてるよ! ダイジョブ ダイジョブ」と返信、息子からは「そうそう笑」3人で過ごしたあの時を今でも覚えていてくれたのかと思うと、嬉しくて再び涙が溢れた。